待ちに待った試合終了の瞬間、甲府イレブンを襲ったのは喜びでは なく、深い安ど感だった。グラウンドに座り込んだ。ガッツポーズ さえも忘れていた。初めて90分間、集中力を切らさなかった。 5戦全敗がうそのように、気迫で圧倒した。エネルギーは尽き果てていた。
「今日は試合前から雰囲気が違った。若手の気持ちが伝わってきた」と、 ゲーム主将を務めたDF仲田。言葉通り、試合開始から中盤の4人が 激しいプレスを見せた。前半15分、相手ボールを奪った仲田が60 メートルのクロスを送った。これを太田がGKの動きを確認して左隅に 蹴り込んだ。7分後には、松島が頭で2点目。前半は、水戸に1本の シュートも打たせない完ぺきな内容だった。
変身の背景には、ヘイス監督の怒りがあった。今節を控えた12日の 紅白戦。ミスの続出に、ヘイス監督は「プロ意識がなさ過ぎる」と激怒し、 途中で切り上げた。ぼう然とする若手に仲田が重ねて言った。 「文句を言う前に、監督の言うことを100%やろう」。前主将の 言葉に、やる気を失いかけた若手が奮起した。目が覚めた。そして、 結果につなげた。
「若いチームだし、これで勢いがつく」と仲田。開幕以来の重苦しい 雰囲気は消えた。試合後、ヘイス監督は選手1人ずつと握手を交わした。 「明日からはまた、次の試合に向けて切り替える。でも、今日1日は 楽しませてよ」。ちゃめっ気たっぷりに話す笑顔に、鬼の形相はない。 遅ればせながら、甲府の21世紀がスタートした。【中村誠慈】